TSMC時価総額1兆ドル突破：AI需要急拡大で半導体業界の新時代到来

2025年07月21日

TSMCが時価総額1兆ドルを突破、世界第9位の企業価値を達成
AI向け先端チップが売上の60%を占め、第2四半期は前年同期比39%増収
米国工場建設を前倒しし、地政学リスクに対応しながら成長戦略を推進

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史上初の1兆ドル突破：AI革命が牽引する半導体業界の転換点

台湾積体電路製造（TSMC）が2025年7月17日、時価総額1兆ドルの大台を突破しました[1]。現在の企業価値は1兆2460億ドルに達し、世界第9位の規模となっています[3]。この歴史的な節目は、人工知能（AI）技術の急速な普及により半導体需要が爆発的に増加していることを象徴しています。

TSMCの株価は年初来19.3%上昇し、52週間高値の248.28ドルに迫る勢いを見せています[4]。2008年には400億ドルだった時価総額が17年間で約30倍に成長した背景には、同社が世界の半導体受託製造の67%を占める圧倒的な市場地位があります[3]。

TSMCの1兆ドル突破は、まさに「デジタル時代の石油会社」としての地位を確立したことを意味します。かつて石油メジャーが世界経済を支配したように、今やAIチップを製造できる企業が次世代の経済成長を左右する時代に入りました。この変化は単なる株価上昇ではなく、産業構造そのものの根本的な転換を表しています。TSMCが「シリコンのサウジアラビア」と呼ばれる理由がここにあります。

AI需要が押し上げる驚異的な業績成長

2025年第2四半期の業績は、AI需要の爆発的な拡大を如実に示しています。売上高は前年同期比39%増の9332億台湾ドル（約317億ドル）に達し[1]、純利益は61%増の135億ドルを記録しました[4]。特に注目すべきは、5ナノメートルおよび3ナノメートルの先端プロセスチップが全体の売上の60%を占めていることです[2]。

これらの先端チップは、NVIDIAのGPUやAppleのM3チップなど、AI処理に不可欠な製品に使用されています[2]。AMDの予測によると、AI向けチップ市場は2028年までに5000億ドル規模に成長する見込みで[2]、TSMCはこの巨大市場の中核を担う立場にあります。同社の粗利益率58.6%という高収益性も、技術的優位性の証明と言えるでしょう[2]。

TSMCの業績を理解するには、現代のAI革命を「電気の発明」に例えるとわかりやすいでしょう。19世紀後半に電気が普及した際、発電所を建設できる企業が莫大な利益を得たように、今日ではAIチップを製造できる企業が同様の恩恵を受けています。TSMCの60%という先端チップ比率は、まさに「AI時代の発電所」としての役割を果たしていることを示しています。この技術的な護城河（競合他社が簡単には追いつけない技術的優位性）こそが、同社の高い利益率を支える源泉なのです。

地政学リスクへの戦略的対応：米国展開の加速

TSMCは地政学的リスクに対応するため、米国での製造能力拡大を前倒しで進めています。アリゾナ州では第1工場が既に稼働を開始し、現在は2ナノメートルプロセスのA16チップ生産を目指す第3工場の建設が進行中です[4]。計画では先端製造工場6施設と包装工場2施設の建設が予定されており、顧客からの強い要望により当初スケジュールより早期の完成を目指しています[1]。

この戦略的展開の背景には、米国が検討している輸入チップに対する25%の関税リスクがあります[4]。C.C.Wei最高経営責任者は関税リスクを認識しつつも、AI需要の成長がこれらの課題を上回ると楽観的な見通しを示しています[1]。2025年通年の売上成長率は約30%と予測されており、先端チップ需要の継続的な拡大が成長を支えると期待されています[1]。

TSMCの米国展開は、まさに「卵を複数のかごに分ける」戦略の実践例です。台湾に製造拠点を集中させることのリスクを分散し、同時に最大の顧客市場である米国により近い場所で生産することで、サプライチェーンの安定性と効率性を両立させています。これは単なるリスク回避ではなく、長期的な競争優位性を確保するための先見的な投資と言えます。地政学的な不確実性が高まる中、このような戦略的な地理的分散は、TSMCの企業価値をさらに押し上げる要因となるでしょう。

まとめ

TSMCの時価総額1兆ドル突破は、AI革命による半導体業界の構造的変化を象徴する歴史的な出来事です。先端プロセス技術における圧倒的な優位性、AI需要の急拡大による業績成長、そして地政学リスクに対する戦略的な対応が相まって、同社の企業価値を押し上げています。ウォール街のアナリストも240ドルから270ドルの目標株価を設定し[5]、今後も継続的な成長への期待を示しています。AI時代の到来とともに、TSMCは単なる製造業者から、デジタル経済の基盤を支える戦略的企業へと進化を遂げたと言えるでしょう。