東南アジアでAI統治権争い激化、日米欧が中国に対抗

2025年08月18日

日本がASEAN諸国にOECD AI原則を推進、中国のBRICS枠組みに対抗
中国がインドネシアに第2のASEAN中国AIラボ設立、技術影響力拡大
米国の輸出規制を迂回し東南アジア経由で10億ドル分のAIチップが中国流入

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日本主導のOECD枠組み推進とASEAN諸国への働きかけ

東南アジアにおけるAIガバナンス主導権をめぐる競争が激化する中、日本は積極的にASEAN諸国をOECD主導のAI統治枠組みに取り込む戦略を展開しています[1]。バンコクで開催されたワークショップでは、日本の官僚がASEAN代表者に対してOECD AI政策ツールキットと人間中心のAI原則を積極的に推進しました。この取り組みは、中国が推進するBRICS AI枠組みの「公共利益優先」原則に対する明確な対抗措置として位置づけられています。

ASEAN諸国は現在、複数の大国から提示される異なるAIガバナンスオプションの中で選択を迫られている状況です。この競争は単なる規制枠組みの争いにとどまらず、ファーウェイなどの企業を通じた市場プレゼンスの拡大も含む包括的な影響力競争となっています[1]。日本の戦略は、技術的優位性よりも国際協調と透明性を重視するアプローチで差別化を図っています。

この日本の取り組みは、まさに「ソフトパワー外交」の現代版と言えるでしょう。技術力で中国に劣る部分があっても、国際機関との連携や透明性の高い統治原則を武器に影響力を拡大する戦略です。ASEAN諸国にとって、中国の経済的魅力と日本の制度的安定性のバランスを取ることが重要な課題となっています。この競争は、単なる技術標準の争いではなく、将来のデジタル社会の価値観を決定する重要な分岐点となるでしょう。

中国の戦略的AI拠点拡大とインドネシア進出

中国は東南アジア最大の経済大国であるインドネシアに第2のASEAN中国AIラボを設立することで、地域におけるAI影響力の拡大を図っています[2]。マレーシアを拠点とするZetrix AIが主導するこの取り組みは、政府間イニシアチブとして両国政府の支援を受けており、技術移転と国境を越えたAIアプリケーションの開発に焦点を当てています。

このラボでは、ブロックチェーン、生成AI、ロボティクス技術の融合に加え、世界初のシャリア法準拠大規模言語モデルの開発など、現地の文化的要求に適応したAIソリューションの開発が進められています[2]。インドネシアをASEAN・中国間のAI協力ハブとして戦略的に位置づけることで、中国は地域全体への技術的影響力を効率的に拡大する狙いがあります。

中国のアプローチは「現地化戦略」の典型例です。単に技術を輸出するのではなく、イスラム金融に準拠したAIモデルの開発など、各国の宗教的・文化的特性に深く配慮した製品開発を行っています。これは、西洋的価値観に基づく標準化されたソリューションとは対照的なアプローチで、東南アジア諸国にとって非常に魅力的に映るでしょう。技術的な優位性だけでなく、文化的適応性も競争力の重要な要素となっていることがわかります。

技術輸出規制の抜け穴と東南アジアの戦略的重要性

米国の対中輸出規制強化にもかかわらず、東南アジア市場を経由して少なくとも10億ドル相当の禁止されたNvidia AIプロセッサーが中国に密輸されていることが明らかになりました[3]。B200チップなどの高性能AI処理装置が東南アジア諸国から中国の販売業者によって調達され、データセンターやAI企業に販売される闇市場が形成されています。

この状況を受けて、米国商務省は東南アジア諸国への先端AIチップ輸出に対するさらなる規制を検討していると報告されています[3]。東南アジアが米中技術競争における重要な通過点となっていることが浮き彫りになり、地域諸国は戦略的な位置づけと潜在的な脆弱性の両方を抱える複雑な状況に置かれています。

この密輸問題は、東南アジアが「技術のシルクロード」として機能していることを示しています。地理的な位置と比較的緩やかな規制環境が、意図せずして大国間の技術競争の抜け穴となっているのです。ASEAN諸国にとって、これは両刃の剣です。一方では技術ハブとしての地位を高める機会となりますが、他方では大国からの圧力や規制強化のリスクも高まります。今後、各国は自国の利益を最大化しつつ、国際的な責任も果たすという難しいバランス取りが求められるでしょう。

まとめ

東南アジアにおけるAIガバナンス主導権争いは、単なる技術標準の競争を超えて、将来のデジタル社会の価値観と統治モデルを決定する重要な戦いとなっています。日本のOECD枠組み推進、中国の現地化戦略、そして韓国などの中堅国の参入により、地域諸国は多様な選択肢の中で自国に最適な道筋を見つける必要があります。技術輸出規制の抜け穴問題は、この地域の戦略的重要性をさらに高めており、ASEAN諸国の判断が世界のAI発展の方向性に大きな影響を与えることになるでしょう。