Rolling Stone運営会社がGoogle AI概要機能で初の大型訴訟

2025年09月15日

米大手出版社が初めてGoogleのAI概要機能を著作権侵害で提訴
AI概要表示により関連収益が3分の1以上減少と主張
Google検索結果の2割でAI概要が表示され、クリック数が激減

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米メディア大手が挑む前例なき法廷闘争

Rolling Stone、Billboard、Varietyなどの著名メディアを運営するPenske Media Corporation（PMC）が9月13日、ワシントンD.C.連邦地方裁判所にてGoogleを提訴しました[1]。この訴訟は、GoogleのAI概要機能（AI Overviews）が同社の記事コンテンツを無許可で使用し、著作権を侵害しているとして損害賠償を求めるものです。米国の大手出版社がGoogleのAI検索機能に対して起こした初の本格的な法的挑戦として、業界全体に大きな波紋を広げています[2]。

PMCは月間1億2000万人のオンライン訪問者を抱える影響力のあるメディア企業です[3]。同社のジェイ・ペンスキーCEOは「我々のジャーナリストを守り、デジタルメディアの完全性を保持する責任がある」と声明を発表し、この訴訟がメディア業界の将来を左右する重要な戦いであることを強調しました[4]。

この訴訟は単なる著作権問題を超えて、AI時代におけるコンテンツ創造者の権利保護という根本的な課題を提起しています。従来の検索エンジンは「道案内」の役割でしたが、AI概要機能は「答えそのもの」を提供するため、元のコンテンツへの訪問が不要になってしまいます。これは図書館で本の要約だけを読んで満足し、実際の本を借りなくなるような状況に似ています。メディア企業にとっては、長年培ってきたコンテンツ制作への投資が報われない深刻な構造変化を意味します。

AI概要機能が引き起こす収益構造の激変

PMCの訴状によると、同社サイトへのGoogle検索結果の約20％でAI概要が表示されるようになり、これによってユーザーのクリック数が大幅に減少しています[5]。特に深刻なのは収益面への影響で、2024年末までにアフィリエイト収益が3分の1以上減少したと報告されています[6]。GoogleのAI概要機能は2024年5月に本格導入されましたが、わずか数ヶ月でメディア企業の収益構造に大きな変化をもたらしました[7]。

この問題の背景には、Googleが米国検索市場の約90％を占める圧倒的な独占的地位があります[8]。PMCは、Googleがこの支配的地位を悪用して出版社にAI概要機能への協力を事実上強制していると主張しています。出版社側には選択肢がなく、Googleの条件を受け入れるか検索結果から排除されるかの二者択一を迫られているのが現状です。

この状況は、巨大なショッピングモールの中で店舗を運営する小売業者に似ています。モール運営者（Google）が突然、各店舗の商品を入口で無料配布し始めたら、店舗への客足は激減するでしょう。しかし、そのモールから退去すれば顧客との接点を完全に失ってしまうため、不利な条件でも従わざるを得ません。AI概要機能は確かにユーザーの利便性を向上させますが、コンテンツ制作者の持続可能なビジネスモデルを破壊する可能性があります。この問題の解決には、技術革新と公正な利益分配のバランスを見つけることが不可欠です。

業界全体に広がる懸念とGoogleの反論

PMCの訴訟は孤立した事例ではありません。教育プラットフォームのCheggも2月に同様の理由でGoogleを提訴しており、AI概要機能に対する出版業界の懸念が広がっていることを示しています[9]。多くのメディア企業が同様の収益減少を経験しており、この訴訟の結果は業界全体の将来を左右する可能性があります。一方、Googleの広報担当者ホセ・カスタニェーダ氏は「AI概要機能は検索をより有用にし、より多様なウェブサイトへのトラフィックを生み出している」と反論しています[10]。

Google側は、AI概要機能がユーザー体験を向上させ、新たなコンテンツ発見の機会を創出していると主張しています。しかし、出版社側からは、この機能が従来の広告収入やサブスクリプション収益を直接的に脅かしているという強い反発があります。両者の主張は真っ向から対立しており、法廷での決着が注目されています。

この対立は、デジタル時代における「価値創造」と「価値抽出」の根本的な問題を浮き彫りにしています。Googleは既存のコンテンツを要約・再構成することで新たな価値を提供していると主張しますが、元のコンテンツ制作者は自分たちの労力と投資が適切に報われていないと感じています。これは料理レシピを参考にして新しい料理を作る場合に似ています。参考にすること自体は問題ありませんが、元のレシピ作成者への敬意と適切な対価が必要です。AI技術の発展により、この種の「参照と創造」の境界線がますます曖昧になっており、法的・倫理的な新しい枠組みの構築が急務となっています。

まとめ

Penske Mediaによる今回の訴訟は、AI時代におけるコンテンツの権利保護という新たな法的領域を開拓する重要な試金石となります。この訴訟の結果は、他の出版社やコンテンツ制作者にとって重要な先例となり、AI技術と既存メディアビジネスの共存方法を決定づける可能性があります。技術革新と公正な利益分配のバランスを見つけることが、持続可能なデジタルメディア生態系の構築には不可欠です。