中国特許弁護士協会がAI文書生成を全面禁止、知財業界に波紋

2025年09月28日

中国特許弁護士協会が職業倫理規定を改訂、AI生成文書の直接提出を禁止
特許代理サービスの悪意的価格競争も同時に規制対象に
中国のAI規制強化の一環として知財分野でも厳格な管理体制を構築

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特許業界におけるAI利用禁止の詳細内容

2025年9月22日、中国特許弁護士協会（ACPAA）は職業倫理規定の改訂版を発表し、特許代理人が人工知能を使用して特許出願書類を直接生成し、最終提出することを明確に禁止しました[1]。新規定の第15条では、この禁止事項が明文化されており、特許業界におけるAI利用に対する厳格な姿勢を示しています。

同時に第48条では、特許代理サービスにおける悪意的な価格引き下げやその他の不公正競争行為も禁止されました[1]。これらの規制は、特許業界の品質維持と公正な競争環境の確保を目的としており、AI技術の普及に伴う業界の混乱を防ぐ狙いがあります。ACPAAは任意加入の準政府組織であり、強制力は会員の除名処分に限定されますが、業界への影響力は大きいとされています。

この禁止措置は、特許文書の品質と信頼性を確保するための予防的措置と考えられます。特許出願は企業の知的財産権を左右する重要な法的文書であり、AI生成による不正確性や責任の所在の曖昧さが問題となる可能性があります。例えば、料理のレシピを機械に任せるのと同様に、基本的な材料（技術情報）は揃っていても、微妙な調整や専門的判断が欠けると、最終的な「料理」（特許文書）の品質が大きく損なわれる危険性があるのです。この規制により、特許代理人の専門性と責任が改めて重視されることになります。

中国のAI規制政策における位置づけ

今回の特許分野でのAI利用禁止は、中国が推進する包括的なAI規制政策の一環として理解する必要があります。中国は2023年8月に世界初の包括的な生成AI規制を実施し、AI技術の発展と管理の両立を図っています[2]。この規制フレームワークには、深層合成規定、アルゴリズム推奨要件、AI プロジェクトの倫理審査措置などが含まれています。

中国のサイバースペース管理局の届出制度の下で、2024年半ばまでに1,400以上のAIアルゴリズムが登録されており[2]、政府による AI技術の監視と管理が徹底されています。データ保護、透明性、アルゴリズムの説明責任、AI システムに対する人間の制御を重視する姿勢が、特許分野の規制にも反映されています。

中国のAI規制アプローチは、技術革新と社会的統制のバランスを取る独特の戦略を示しています。これは、交通システムに例えると、自動運転技術の発展を促進しながらも、重要な交差点では必ず人間の交通整理員を配置するような考え方です。特許分野での規制も同様に、AI技術の利便性を認めつつも、知的財産という国家の競争力に直結する重要分野では人間の専門性を優先する姿勢を明確にしています。この多層的な規制体制により、中国は AI技術の発展をコントロールしながら、自国の利益を最大化しようとしているのです。

知的財産分野におけるAI利用の課題と世界的動向

特許文書生成におけるAI利用の問題は、中国だけでなく世界的な課題となっています。学術研究分野では、Science、Nature、Elsevier、JAMA Networkなどの主要ジャーナルが生成AIの使用に関して、完全禁止から管理された使用まで様々な政策を実施しています[3]。これらの政策は、AI生成コンテンツの品質管理と責任の所在を明確にする必要性を反映しています。

従来の盗用検出方法では、生成AIによる不正パターンを特定することが困難であり、特に本物のデータとAI生成の結論を組み合わせたハイブリッド出力の検出は極めて困難です[3]。学術不正が発生した場合の責任の連鎖が曖昧になることも大きな問題となっており、人間とAIの監視システムを組み合わせたハイブリッド意思決定メカニズムの必要性が指摘されています。

知的財産分野でのAI利用問題は、デジタル時代における「真正性」の定義を根本から問い直しています。これは、手作りの工芸品と機械製品の違いのように、単純な品質の問題ではなく、創造性と責任の本質に関わる問題です。特許文書は発明者の創造的思考を法的に保護する文書であり、その作成過程にAIが介入することで、人間の創造性の価値が希薄化する可能性があります。また、AI生成文書に誤りがあった場合、その責任を誰が負うのかという問題は、保険制度や法的責任の枠組み全体に影響を与える可能性があります。中国の規制は、こうした複雑な問題に対する一つの明確な答えを示したと言えるでしょう。

まとめ

中国特許弁護士協会によるAI文書生成の全面禁止は、知的財産分野におけるAI技術利用の課題を浮き彫りにした重要な政策決定です。この措置は、特許文書の品質と信頼性を確保し、専門家の責任を明確にする一方で、AI技術の発展と効率性の向上という利益を犠牲にする側面もあります。中国の包括的なAI規制政策の一環として実施されたこの禁止措置は、他国の知的財産制度や AI規制政策にも影響を与える可能性があり、今後の動向が注目されます。