Meta、150億ドルでScale AI買収へ｜28歳創設者が新AI部門責任者に

2025年06月13日

更新: 2025年06月18日

MetaがScale AIの49%株式を150億ドルで取得し、AI競争力強化を図る
28歳のAlexandr Wang氏がMetaの新AI超知能部門の責任者に就任
高品質なAIトレーニングデータの確保が狙いだが、実行リスクも存在

150億ドル投資でAI競争の新局面へ

Metaは、AIデータプラットフォーム企業Scale AIの49%株式を150億ドルで取得する計画を発表しました[1]。この投資により、Scale AIの創設者であるAlexandr Wang氏（28歳）がMetaの新設AI超知能部門の責任者に就任することになります。この動きは、OpenAIやGoogleとのAI競争において、Metaが高品質なトレーニングデータへのアクセスを確保する戦略的な取り組みです[2]。

Scale AIは、複雑なAIモデルのトレーニングに必要な高品質データの作成・管理を専門とする企業です。同社の従業員の12%が博士号を持ち、40%が修士号以上の学位を保有しており、医療や金融などの専門分野でのAIトレーニングデータ作成に特化した高度な人材を擁しています[4]。

この買収は、まさにAI時代の「石油パイプライン」を確保する動きと言えるでしょう。AIモデルの性能は、どれだけ質の高いデータで訓練されるかに大きく依存します。例えば、料理の腕前が良い食材に左右されるように、AIの「知能」も良質なデータに依存するのです。Metaは自社のLlamaモデルが中国のDeepSeekなどの競合に遅れをとっている現状を打開するため、データの「源流」を押さえにかかったと見ることができます。

28歳CEOの抜擢に潜むリスクと期待

Wang氏の起用について、業界では賛否両論が分かれています。彼は確かにScale AIを成功に導いた実績を持つ一方で、大規模なAI研究ラボの運営経験がないという指摘もあります[2]。Metaは現在、50名以上のメンバーからなるAGI（汎用人工知能）チームの構築を進めており、Google DeepMindの研究者Jack Rae氏などの著名な人材をヘッドハンティングしています[5]。

この人事戦略は、Mark Zuckerberg氏の「ファウンダーモード」経営アプローチの一環とされています。同氏は2025年にAI分野で600-650億ドルの設備投資を計画しており、Wang氏の登用はこの大規模投資の中核を担う人材確保の一環です[5]。

Wang氏の抜擢は、まさに「若き天才への大きな賭け」です。これは、FacebookがInstagramを10億ドルで買収した際に、創設者Kevin Systrom氏（当時29歳）を重要なポジションに据えた戦略と似ています。ただし、今回は規模が桁違いです。AIの世界では、理論的な知識だけでなく、膨大なリソースを効率的に管理し、異なる専門分野の研究者たちをまとめ上げるリーダーシップが求められます。Wang氏がこの重責を担えるかどうかが、Metaの150億ドル投資の成否を左右することになるでしょう。

規制回避と戦略的パートナーシップの構造

今回の取引構造は、完全買収ではなく49%の部分取得という形を取っています。これは、MicrosoftとOpenAIの関係と同様に、独占禁止法などの規制当局の厳しい審査を回避する狙いがあります[4]。実質的には、データサービスの前払い契約という形で資金を提供し、Scale AIの独立性を保ちながら戦略的パートナーシップを構築する仕組みです。

一方で、この取引がScale AIの既存の契約労働者にもたらす恩恵は限定的とされています。同社のRemoTasksプラットフォームで働く世界中の契約労働者たちは、企業レベルでの大型取引の恩恵を直接受けることは少ないと予想されます[1]。

この取引構造は、現代のテック業界における「賢い買収」の典型例です。完全買収すれば規制当局の厳しいチェックを受ける可能性が高いため、「戦略的投資」という形を取ることで、実質的な支配権を確保しつつリスクを最小化しています。これは、まるで企業版の「事実婚」のようなものです。法的には独立していながら、実質的には一体となって運営される関係性を構築しているのです。ただし、この構造が長期的に持続可能かどうかは、両社の利害が一致し続けるかどうかにかかっています。

まとめ

Metaの150億ドルScale AI投資は、AI競争における戦略的な転換点となる可能性があります。高品質なトレーニングデータへのアクセス確保と、若き才能の登用により、同社はOpenAIやGoogleとの競争で優位に立とうとしています。しかし、Wang氏のリーダーシップ能力や、急速に変化するAI市場での実行スピードなど、多くの課題も残されています。この大胆な投資が実を結ぶかどうかは、今後数年間のAI業界の動向を大きく左右することになるでしょう。