Meta、Scale AI創設者を招聘し143億ドル投資で超知能研究所設立

2025年06月13日

更新: 2025年06月18日

MetaがScale AIに143億ドル投資し、創設者Wang氏をAI部門責任者に招聘
新設される「超知能研究所」でAGI開発を本格化、AI競争での巻き返しを図る
Scale AIは独立性を維持しつつ、Metaとの戦略的パートナーシップを深化

史上最大級のAI人材獲得戦略

Meta（旧Facebook）は、AI分野での競争力強化を目的として、データラベリング企業Scale AIに143億ドル（約2兆円）という巨額投資を実施し、同社創設者のAlexandr Wang氏（28歳）を自社のAI部門責任者として招聘することを発表しました[1]。この投資により、MetaはScale AIの49%の株式を取得し、同社の企業価値は290億ドルを超える水準に達しています[2]。

Wang氏は新たに設立される「超知能研究所」を率いることになり、汎用人工知能（AGI）の開発に向けた研究を指揮します。一方で、同氏はScale AIの取締役会メンバーとしても残留し、両社の橋渡し役を担う予定です[3]。Scale AIの暫定CEOには、元最高戦略責任者のJason Droege氏が就任し、企業顧客との関係強化を推進していきます。

この人事戦略は、まさに現代版の「ヘッドハンティング」の極致と言えるでしょう。143億ドルという投資額は、単なる資本参加を超えて、Wang氏という「人材」への投資としての側面が強く表れています。28歳という若さでありながら、AI業界で重要な地位を築いてきたWang氏の経験と人脈は、Metaにとって計り知れない価値があります。特に、Scale AIが持つ高品質なデータラベリング技術とノウハウは、AI モデルの性能向上に直結するため、この獲得はMetaのAI開発能力を飛躍的に向上させる可能性があります。

GoogleとOpenAIに対抗する超知能研究所の設立

Metaが新設する「超知能研究所」は、GoogleのDeepMindやOpenAIに対抗するための戦略的拠点として位置づけられています[2]。同研究所では、現在のLlama モデルを基盤としながら、より高度な推論能力と汎用性を持つAGIの実現を目指します。MetaのAI研究責任者であるYann LeCun氏とRob Fergus氏の指導の下、Wang氏が実務面でのリーダーシップを発揮する体制が構築されます[4]。

この取り組みは、Metaが過去に行ったWhatsAppやInstagramの買収戦略と類似した側面を持ちます[5]。ただし、今回は単純な企業買収ではなく、Scale AIの独立性を維持しながら戦略的パートナーシップを深化させる点が特徴的です。これにより、Scale AIは引き続き他のAI企業へのサービス提供を継続できる一方で、Metaとの協力関係を通じて新たな技術革新を追求できます。

この「超知能研究所」の設立は、AI業界における勢力図を大きく変える可能性があります。現在、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiが市場をリードしていますが、MetaがScale AIのデータ処理能力とWang氏の戦略的視点を組み合わせることで、全く新しいアプローチでAGI開発に挑戦できるでしょう。特に注目すべきは、MetaがオープンソースのLlamaモデルを通じて培ってきた開発者コミュニティとの関係です。これらのリソースを活用することで、従来の閉鎖的なAI開発とは異なる、より協調的なアプローチでAGIに近づく可能性があります。

Scale AIの戦略的価値とデータラベリング技術

Scale AIは、AI モデルの訓練に不可欠な高品質データの作成・ラベリング分野で業界をリードしてきました。同社は軍事・政府機関との契約も多数保有しており、これらの関係性もMetaにとって戦略的な価値を持ちます[4]。Wang氏の移籍後も、Scale AIはこれらの既存契約を維持し、多様なAI企業へのサービス提供を継続する予定です。

今回の投資により、Scale AIは49%の株式をMetaに譲渡しますが、過半数の支配権は維持されるため、経営の独立性は保たれます[1]。この構造により、Scale AIは他のAI企業との競合関係を維持しながら、Metaとの戦略的協力を深めることが可能になります。特に、データの品質と多様性の確保は、AGI開発において極めて重要な要素であり、Scale AIの専門知識がMetaの研究開発を大幅に加速させると期待されています。

Scale AIの真の価値は、単なるデータラベリング技術にとどまりません。同社が蓄積してきた「AI モデルの性能を最大化するためのデータ設計ノウハウ」こそが、今回の巨額投資の核心部分です。例えば、どのような種類のデータをどの程度の品質で準備すれば、特定のタスクでAI モデルの性能が向上するかという知見は、まさに企業秘密レベルの価値があります。Metaがこの知見を獲得することで、競合他社よりも効率的にAI モデルを改善できるようになり、開発コストの削減と性能向上の両方を実現できる可能性があります。これは、AI開発における「データドリブン」アプローチの究極形と言えるでしょう。

まとめ

Metaによる143億ドルのScale AI投資とWang氏の招聘は、AI業界における新たな競争フェーズの始まりを示しています。この戦略的パートナーシップにより、Metaは高品質なデータ処理能力と若き天才経営者の戦略的視点を獲得し、AGI開発競争での巻き返しを図ります。Scale AIの独立性維持という巧妙な構造により、両社は相互利益を最大化しながら、AI技術の革新を推進していくことが期待されます。