Microsoft・IREN間97億ドルAI電力契約、データセンター投資競争が激化

2025年11月04日

MicrosoftがIRENと97億ドルのAI電力供給契約を締結
オーストラリアでのデータセンター建設に向けた大規模投資
AI需要急増により電力インフラ確保競争が激化

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史上最大規模のAI電力供給契約が誕生

Microsoftは2025年11月、オーストラリアの電力会社IRENと97億ドル（約1兆5000億円）規模のAI電力供給契約を締結したと発表しました[1]。この契約は、AI処理に必要な膨大な電力需要に対応するため、IRENがオーストラリア国内でデータセンター向けの電力インフラを構築することを目的としています。契約期間は20年間に及び、AI業界における電力供給契約としては史上最大規模となります[2]。

IRENは元々ビットコインマイニング事業で知られる企業でしたが、近年はAI向けクラウドサービスへの事業転換を進めています[3]。同社は既に数千台のNVIDIA製GPUを保有しており、これらのハードウェア資産をAI処理向けに活用する計画です。今回の契約により、IRENはMicrosoftのAzureクラウドサービス向けに専用の電力供給体制を構築し、AI処理能力の大幅な拡張を支援することになります。

この契約の意義は単なる電力供給を超えています。従来のクラウドサービスでは、データセンターは既存の電力網に依存していましたが、AI処理の電力消費量は従来のサーバーの10倍以上に達することもあります。これは、家庭用エアコン1台分の電力で動いていたサーバーが、突然小さな工場並みの電力を必要とするようになったと考えれば分かりやすいでしょう。Microsoftは電力供給から逆算してインフラを設計する戦略に転換しており、これは業界全体のパラダイムシフトを示しています。

グローバルなAIインフラ投資戦略の一環

今回のIREN契約は、Microsoftが推進するグローバルなAIインフラ投資戦略の重要な一部です。同社は同時期に、UAE（アラブ首長国連邦）への152億ドルの投資も発表しており[4]、世界各地でAI処理能力の確保を急いでいます。UAEへの投資では、数万台のNVIDIA製チップの配備が計画されており、中東地域におけるAIハブの構築を目指しています[5]。

これらの投資は、地政学的な要因も考慮されています。特に米中間の技術競争が激化する中、Microsoftは中国以外の地域でのAI処理能力確保を重視しています[6]。オーストラリアやUAEといった戦略的パートナー国での投資により、安定したAIサービス提供体制の構築を図っています。また、Lambda社との数十億ドル規模の契約も並行して進めており[7]、複数の地域・パートナーとの連携によりリスク分散を図る戦略が明確になっています。

Microsoftの戦略は、まるで戦時中の食料備蓄のように、AI処理能力を世界各地に分散配置する考え方です。一つの国や地域に依存するリスクを避け、地政学的な変化にも対応できる体制を構築しています。これは単なるビジネス戦略を超えて、国家安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。AI技術が国力の源泉となる時代において、処理能力の確保は石油確保と同じくらい戦略的な重要性を持つようになっているのです。

AI電力需要急増がもたらす業界変革

AI処理に必要な電力需要の急激な増加は、データセンター業界全体の構造変化を促しています[8]。従来のデータセンターは既存の電力インフラに依存していましたが、AI処理では1台のサーバーが消費する電力が従来の10倍以上に達することもあり、既存の電力網では対応が困難になっています。このため、電力会社との直接契約や専用電力インフラの構築が必要不可欠となっています。

IRENのような企業が注目される理由は、ビットコインマイニングで培った大電力消費の運用ノウハウにあります。マイニング事業では24時間365日の高負荷運用が求められ、電力効率の最適化や冷却システムの管理技術が蓄積されています。これらの技術とインフラがAI処理にも応用可能であり、従来のデータセンター事業者よりも迅速な対応が可能となっています。

この変化は、インターネット黎明期にISP（インターネットサービスプロバイダー）が急成長したのと似た構造変化です。当時、電話回線を使ったダイヤルアップ接続から始まったインターネットが、専用線や光ファイバーなどの専用インフラを必要とするようになったのと同じように、AI時代には専用の電力インフラが必要になっています。ビットコインマイニング企業がAI事業に転換するのは、まさに時代の要請に応えた自然な進化と言えるでしょう。彼らは既に「電力を計算能力に変換する」ビジネスモデルを確立しており、対象がビットコインからAIに変わっただけなのです。

まとめ

MicrosoftとIRENの97億ドル契約は、AI時代における電力インフラの重要性を象徴する出来事です。この契約により、AI処理に特化した電力供給体制の構築が本格化し、業界全体の投資競争がさらに激化することが予想されます。今後、他の大手テック企業も同様の戦略を採用する可能性が高く、AI電力インフラ市場の急速な拡大が見込まれます。