Salesforce、SlackのAPI制限でAI競合他社をブロック

2025年06月12日

SalesforceがSlack APIの利用規約を変更し、競合AI企業のデータアクセスを制限
Gleanなどのサードパーティ企業はSlackメッセージの永続的保存が不可能に
プライバシー保護を名目とした戦略的な競争優位性確保の動きと分析

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SlackのAPI制限による競合AI企業への影響

Salesforceは2025年5月29日付けでSlackのAPI利用規約を更新し、競合するAI企業によるSlackメッセージデータの永続的な保存を禁止しました[1]。この変更により、企業向け検索プラットフォームのGleanをはじめとするサードパーティのAI企業は、Slackデータを自社の検索インデックスに追加することができなくなりました。新しい規約では、リアルタイムでの一時的なデータアクセスは許可されるものの、長期的なデータリポジトリの構築は明確に禁止されています[2]。

技術的な実装面では、Salesforceはカスタムアプリケーションに対して1分間に1リクエストという厳格なAPI制限を課しています[3]。これは実質的に大量のデータ抽出を不可能にする措置であり、15メッセージ毎分という制限により、企業規模でのデータ統合は現実的ではなくなりました。一方で、Slackマーケットプレイスで承認されたアプリケーションには、より寛容なアクセス権限が与えられており、明確な差別化が図られています[5]。

この動きは、まさにデジタル時代の「城壁」を築く戦略と言えるでしょう。従来のソフトウェア業界では、APIの開放性が競争力の源泉とされてきましたが、AI時代においてはデータそのものが最も価値のある資産となっています。Salesforceの今回の措置は、自社のEinstein AIプラットフォームを有利にするための戦略的な囲い込みと考えられます。これは、GoogleがAndroidエコシステムで行った戦略に似ており、オープンなプラットフォームを提供しながらも、最も価値の高い部分は自社に留保するという手法です。企業ユーザーにとっては選択肢が制限される一方で、Slackマーケットプレイス内での統合ソリューションの品質向上が期待できるかもしれません。

プライバシー保護を名目とした戦略的判断

Salesforceは今回のAPI制限について、プライバシー保護を主要な動機として説明しています[2]。企業のメッセージデータは機密性が高く、サードパーティによる長期保存はセキュリティリスクを増大させる可能性があるという論理です。この説明は、欧州のGDPRや米国の各種データ保護規制の強化トレンドとも合致しており、規制当局からの支持を得やすい立場を確保しています。

しかし、市場アナリストは、この動きがSalesforceの企業AI分野における戦略的ポジショニングの一環であると分析しています[4]。SlackデータをEinstein AIツールに独占的に流入させることで、競合他社に対する技術的な優位性を確保する狙いがあると考えられています。実際、Gleanは顧客に対して即座に影響を通知しており、同社の知識グラフからSlackデータの統合が不可能になったことを公表しています[3]。

プライバシー保護という大義名分は、現代のテック企業が競争戦略を正当化する際の「黄金の盾」となっています。確かに企業データの保護は重要な課題ですが、同時にこれが市場支配力を強化する手段として使われることも珍しくありません。今回のケースでは、Salesforceが「データの民主化」から「データの囲い込み」へと方針転換したと捉えることができます。これは、AI時代における新たな競争ルールの確立を意味しており、他の大手テック企業も同様の戦略を採用する可能性があります。企業ユーザーは、ベンダーロックインのリスクを慎重に評価し、データポータビリティの確保を重視した選択を行う必要があるでしょう。

AI業界における競争環境の変化

今回のSalesforceの動きは、AI業界全体の競争環境に大きな変化をもたらす可能性があります。従来、企業向けAIソリューションは、様々なデータソースからの情報統合によって価値を創出してきました。しかし、主要なプラットフォーム企業がデータアクセスを制限することで、独立系AI企業の競争力が大幅に削がれる構造が生まれています[4]。

この変化は、AI業界における「垂直統合」の加速を示唆しています。データを保有する企業が、そのデータを活用したAIサービスも自社で提供することで、エコシステム全体をコントロールしようとする傾向が強まっています。Microsoftのオフィススイートとの統合、GoogleのWorkspaceとの連携など、他の大手企業も同様のアプローチを採用しており、業界全体のパラダイムシフトが進行中です[6]。

これは、インターネット初期の「オープンウェブ」から「ウォールドガーデン」への移行に似た現象です。当初は情報の自由な流通が重視されていましたが、商業化が進むにつれて、各プラットフォームが自社の庭園を築き上げるようになりました。AI時代においても同様の動きが見られ、データという「新しい石油」を巡る争奪戦が激化しています。独立系AI企業にとっては厳しい環境となりますが、一方で特定分野に特化した専門性の高いソリューションや、オープンソースベースの代替手段の重要性が高まることも予想されます。企業ユーザーは、単一ベンダーへの依存リスクを避けるため、マルチベンダー戦略やハイブリッドアプローチの検討が必要になるでしょう。