Samsung半導体部門、AI競争で大幅減益・Tesla契約で反転狙う

2025年07月31日

Samsung半導体部門の営業利益が94%減の4000億ウォンに急落
米国輸出規制によりAIチップ在庫処理で一時的損失計上
Tesla向け165億ドルのAIチップ契約で2025年下半期回復期待

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半導体部門の深刻な業績悪化、予想を大幅下回る

Samsung Electronicsの2025年第2四半期決算で、半導体部門の営業利益は前年同期比94%減の4000億ウォン（約400億円）に急落しました[1]。これはアナリスト予想の2兆7300億ウォンを85%も下回る結果となり、同社の半導体事業が直面する深刻な危機を浮き彫りにしています。全社売上高は74兆6000億ウォンと前四半期比5.8%減少し、特に半導体部門の不振が全体業績を大きく押し下げました[2]。

この業績悪化の主因は、米国による中国向け先端AIチップ輸出規制の影響です。Samsungのファウンドリ事業は中国市場への依存度が高く、規制により売れ残ったAIチップの在庫処理費用を一時的に計上せざるを得ませんでした[1]。さらに、ファウンドリの稼働率低下も収益性を大幅に悪化させる要因となっています。

この数字は単なる一時的な落ち込みではなく、AIチップ市場におけるSamsungの構造的な課題を示しています。例えば、スマートフォンの製造に例えると、最新モデルの部品を大量に仕入れたものの、突然の規制で販売先を失い、在庫が山積みになった状況です。特に半導体は製造に長期間を要するため、需要予測の誤りや外部環境の変化が直接的に業績に響きます。米中貿易摩擦の長期化により、こうした地政学的リスクは今後も継続する可能性が高く、Samsungには供給先の多様化が急務となっています。

HBM3E認証遅延とAIメモリ市場での競争劣勢

AIチップ競争におけるSamsungの苦戦は、高帯域幅メモリ（HBM）分野でも顕著に現れています。同社のHBM3E製品はNvidia向けの認証取得が遅れており、SK HynixやMicronに比べて市場投入が後手に回っています[3]。さらに次世代のHBM4開発でも競合他社に遅れを取っており、AI向け高性能メモリ市場でのシェア拡大が困難な状況です。

メモリ事業全体では売上高が前四半期比11%増の21兆2000億ウォンと成長を見せたものの[2]、AI特化型の高付加価値製品での競争力不足が利益率の改善を阻んでいます。特にNvidiaのような大手AI企業との取引拡大には、厳格な品質認証プロセスをクリアする必要があり、この遅延が同社の収益機会を大幅に制限しています。

HBMは「AIの頭脳」であるGPUに直結する超高速メモリで、自動車に例えるならエンジンと燃料供給システムの関係に似ています。どんなに高性能なエンジン（GPU）があっても、燃料供給（メモリ）が遅ければ本来の性能を発揮できません。現在のAIブームでは、このHBMが極めて重要な差別化要因となっており、認証の遅れは単なる数ヶ月の問題ではなく、数年間にわたる市場シェア損失につながる可能性があります。Samsungが巻き返すには、技術開発の加速と同時に、顧客との密接な協力関係構築が不可欠です。

Tesla契約で見える光明、2nm GAA技術で反転攻勢

厳しい状況の中、Samsungには大きな希望の光が差し込んでいます。同社は2025年7月末にTeslaから165億ドル（約2兆4000億円）規模のAIチップ製造契約を獲得しました[4]。この契約は2033年までの長期にわたり、Tesla の自動運転車向けAI6チップの生産を担うものです。発表直後にSamsung株価は10%急騰し、投資家の期待の高さを示しました[1]。

この契約の技術的な核心は、Samsungの2nmゲートオールアラウンド（GAA）プロセス技術です。現在の歩留まりは40%を超えており[4]、量産体制への移行が現実的な段階に達しています。2025年下半期には2nm GAA技術を用いたモバイルSoC（システムオンチップ）の本格生産も開始予定で、ファウンドリ事業の回復基調が期待されています。

このTesla契約は、まさに「起死回生の一手」と言えるでしょう。建設業界に例えると、大型プロジェクトの受注により数年間の安定収益が確保される状況です。特に注目すべきは、TeslaがTSMCではなくSamsungを選んだ点です。これは単なる価格競争の結果ではなく、Samsungの2nm GAA技術への信頼と、供給チェーンの多様化を求めるTeslaの戦略的判断を反映しています。自動運転技術の進化により、車載AIチップの需要は今後爆発的に増加すると予想され、この分野での先行投資が将来の競争優位性を決定づける可能性があります。

2025年下半期の回復シナリオと長期戦略

Samsungは2025年下半期からの業績回復を目指し、複数の戦略を同時進行で推進しています。HBM3E製品の認証取得を2025年第3-4四半期に完了させ、Nvidia向け供給を本格化する計画です[3]。また、次世代の1c DRAM量産も2025年第4四半期に開始予定で、メモリ事業の競争力強化を図ります。

ファウンドリ事業では、Tesla契約を皮切りに他の大手顧客との取引拡大を目指しています。米国輸出規制の影響で中国市場への依存度を下げる必要がある中、欧米企業との関係強化が事業安定化の鍵となります[1]。同社の株価は Tesla契約発表後に大幅上昇しており、投資家の期待も高まっています。

Samsungの回復戦略は、まさに「選択と集中」の典型例です。レストラン経営に例えると、不採算メニューを整理し、看板料理に経営資源を集中投下する状況に似ています。HBM3E認証とTesla契約という「看板商品」に注力することで、短期的な収益改善と長期的な競争力確保の両立を図っています。ただし、この戦略の成功には、技術開発のスピードアップと品質管理の徹底が不可欠です。AI市場の急速な変化に対応するため、従来の慎重なアプローチから、よりアグレッシブな事業展開への転換が求められています。