UAE・NVIDIA AIチップ契約保留、中国技術流出懸念で米国が慎重姿勢

2025年07月18日

年間50万個のNVIDIA AIチップ供給契約が米国の安全保障懸念で保留
UAE国家安全保障顧問が率いるG-42への技術流出リスクが焦点
ファーウェイが中東諸国への代替チップ提案で市場参入を図る

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年間50万個の大規模契約が安全保障懸念で停止

アラブ首長国連邦（UAE）とNVIDIAの間で計画されていた大規模なAIチップ供給契約が、米国政府の安全保障上の懸念により保留状態となっています[1]。この契約では、2025年から年間50万個の先進的なAIチップをUAEに供給する予定でした。そのうち10万個は、UAE国家安全保障顧問のシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド氏が率いる国営AI企業G-42に割り当てられる計画でした[1]。

この契約は、トランプ前大統領の5月のUAE訪問時に発表されたもので、G-42を地域のテクノロジー投資ハブとして位置づける戦略の一環でした[1]。しかし、米国当局は中国が間接的にこの技術にアクセスする可能性を懸念し、契約の実行を一時停止しました。UAEが防止策を講じると保証したにもかかわらず、チップの転用リスクが依然として存在するとの判断です[1]。

この契約保留は、現代のAI技術競争における地政学的な複雑さを浮き彫りにしています。年間50万個という規模は、一般的なスマートフォンに搭載されるチップとは異なり、データセンターや大規模AI開発に使用される高性能チップです。これらのチップは、ChatGPTのような大規模言語モデルの訓練や、自動運転技術の開発に不可欠な計算能力を提供します。米国が懸念するのは、これらの技術が中国の軍事AI開発に転用される可能性です。まるで最新の工作機械を輸出する際に、それが兵器製造に使われないか慎重に検討するのと同じ構造です。

中国技術流出リスクと複雑な供給チェーン管理

米国政府の懸念の核心は、米中間の技術競争の激化にあります[2]。UAEとサウジアラビアが密輸防止措置を提案したものの、グローバルな供給チェーンの複雑さにより、これらの措置では不十分と判断されました[2]。特に、中国のファーウェイが湾岸諸国に対して、より低性能ながらも代替となるチップの提案を行っていることが、状況をさらに複雑化させています[1]。

この問題は中東地域に限定されず、アジア太平洋地域でも同様の動きが見られます。マレーシアは最近、米国製AIチップの輸出許可制度を導入し、より厳格な監視体制を敷きました[2]。これは、先進的なAI技術の管理に対する国際的な関心の高まりを反映しています。

この状況は、冷戦時代の「ココム（対共産圏輸出統制委員会）」を彷彿とさせる技術輸出管理の現代版と言えるでしょう。当時は工作機械や半導体製造装置の輸出が制限されましたが、現在はAIチップそのものが管理対象となっています。供給チェーンの複雑さは、例えば自動車部品が複数の国を経由して最終製品に組み込まれるのと同様で、一度輸出されたチップがどこで最終的に使用されるかを完全に把握することは困難です。ファーウェイの代替提案は、まさにこの隙間を狙った戦略的な動きと見ることができます。

地政学的影響と今後の展望

この契約保留は、中東地域におけるAI技術の発展戦略に大きな影響を与える可能性があります。UAEは近年、AI技術の地域ハブとしての地位確立を目指しており、G-42はその中核的な役割を担う予定でした[1]。しかし、米国からの技術供給が不安定になることで、中東諸国は技術調達先の多様化を余儀なくされる可能性があります[2]。

一方で、この状況は中国企業にとって市場参入の機会となっています。ファーウェイをはじめとする中国企業は、米国製品の代替として自社の技術を積極的に売り込んでおり、湾岸諸国との関係強化を図っています[1]。これにより、AI技術分野における米中の影響力競争が中東地域でも激化することが予想されます。

この状況は、技術覇権をめぐる新たな「グレートゲーム」の始まりを示しています。19世紀の英露間の中央アジアでの勢力争いになぞらえると、現在は米中がAI技術を通じて世界各地で影響力を競っている構図です。中東諸国は豊富な資金力を背景に最新技術の導入を図っていますが、技術供給国の政治的思惑に左右される脆弱性も露呈しています。これは、エネルギー安全保障と同様に「技術安全保障」という新たな概念の重要性を浮き彫りにしており、各国は技術調達先の多様化と自主技術開発能力の向上が急務となっています。