国連AI警告が拡大、2025年グローバルガバナンス強化へ

2025年09月27日

国連がAIガバナンスの危険な空白を埋める新たな取り組みを開始
全加盟国が参加する「AIガバナンスに関するグローバル対話」を設立
40名の専門家による独立国際科学パネルが技術基準策定を担当

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国連がAIガバナンス体制の根本的強化に着手

国連は2025年9月26日、ニューヨーク本部でAIガバナンスに関する大規模なイベントを開催し、現在のAI監督体制における「危険な空白」を埋める包括的な取り組みを発表しました[1]。アントニオ・グテーレス事務総長は、AIが人類の運命を決定してはならないと警告し、人間がAIシステムに対する制御を維持する必要性を強調しました[2]。

この取り組みは、政策、科学、能力開発の3つの柱に基づいて構築されており、安全で信頼できる包括的な人工知能を確保するためのグローバルシステム構築の礎石となることを目指しています[3]。国連は、現在のAI技術の発展速度が既存の規制枠組みを上回っているという認識のもと、包括的な監督、基準、セーフガードなしには、イノベーションがガバナンスを凌駕する世界になるリスクがあると警告しています[4]。

この国連の動きは、まさに「デジタル時代の国際連合」としての新たな役割を模索する重要な転換点と言えるでしょう。従来の国連が主に扱ってきた軍事紛争や人道危機とは異なり、AI技術は国境を越えて瞬時に影響を及ぼす性質を持っています。これは、例えば感染症のパンデミックのように、一国の対応だけでは解決できない課題です。国連がこの分野で主導権を握ろうとする背景には、民間企業や一部の技術先進国による「事実上の標準」設定を防ぎ、全人類の利益を代表する国際機関として関与する必要性があります。

全加盟国参加の「AIガバナンスに関するグローバル対話」が始動

国連は「AIガバナンスに関するグローバル対話」を正式に立ち上げ、史上初めて全ての国連加盟国がAIガバナンスのテーブルに席を持つことになりました[5]。この3時間にわたる非公式会合には、各国政府の閣僚、テクノロジー企業の幹部、市民社会の代表者が参加し、格差の解消と能力構築に向けた共通の呼びかけが行われました[6]。

特に注目すべきは、ベラルーシが提起したAI開発における世界的格差の拡大と「技術的新植民地主義」への警告です[7]。この対話は、国際法と人権に根ざしたガバナンス枠組みの開発、各国間でのルールの調和、オープンイノベーションの促進を目的としており、AIの未来を形作る主要なグローバルフォーラムとして機能することが期待されています[8]。

この「グローバル対話」の設立は、AI技術における「デジタル・デバイド」の解消に向けた重要な一歩です。現在のAI開発は、主に米国、中国、欧州の一部企業に集中しており、これは1990年代のインターネット普及初期に似た状況と言えます。当時、インターネットアクセスの格差が「デジタル・デバイド」として社会問題化しましたが、AIの場合はより深刻です。なぜなら、AIは単なる情報アクセスツールではなく、経済活動、医療、教育、さらには軍事分野まで変革する基盤技術だからです。ベラルーシが指摘した「技術的新植民地主義」とは、AI技術を持つ国が持たない国を支配する新たな形の不平等を意味しており、これを防ぐためには国連のような中立的な国際機関による調整が不可欠です。

40名の専門家による独立国際科学パネルが技術基準を策定

国連は「AI独立国際科学パネル」の設立を発表し、40名の国際的専門家が3年間の任期でAIの安全性、セキュリティ、信頼性に関する技術基準の策定に取り組むことになりました[9]。このパネルは、AIのエネルギー消費、労働力への影響、悪意ある目的での悪用防止などの課題について国際的なコンセンサス構築を目指します[10]。

グテーレス事務総長は、これらの行動がAIガバナンスにおいて「原則から実践へ」の移行を支援すると述べ、国連が直接的にグローバルAI政策に影響を与える新たな段階に入ったことを示しました[11]。また、AI能力開発のためのグローバル基金の設立に向けた協議も開始されており、技術格差の解消に向けた具体的な資金メカニズムの構築が進められています[12]。

この科学パネルの設立は、AI技術の標準化における「科学的中立性」の確保という点で極めて重要です。現在、AI技術の標準は主に民間企業や特定国家の研究機関によって事実上決定されていますが、これは医薬品の安全基準を製薬会社だけが決めるようなものです。40名の国際専門家による独立パネルは、WHO（世界保健機関）の専門委員会のような役割を果たすことが期待されます。特に重要なのは、AIのエネルギー消費問題です。大規模なAIモデルの訓練には膨大な電力が必要で、これは気候変動対策と直接関係します。また、労働力への影響については、産業革命時の機械化と同様の社会変革をもたらす可能性があり、国際的な調整なしには大規模な失業や社会不安を引き起こすリスクがあります。

宗教界も参加、AI兵器への道徳的警告が拡大

AI ガバナンスの議論は技術的・政策的側面を超えて、道徳的・倫理的な次元にも拡大しています。バチカンのポール・リチャード・ガラガー大司教は国連安全保障理事会でのAIに関する討論において、自律兵器システムのモラトリアムを求める演説を行いました[13]。この介入は、AI ガバナンスの議論に宗教的・倫理的な視点を加え、特に戦争における自律的意思決定や致命的な文脈での懸念を浮き彫りにしました。

ローマ教皇庁の参加は、AI技術の発展が単なる技術革新を超えて、人間の尊厳と生命の価値に関わる根本的な問題であることを示しています。自律兵器システムに対する道徳的な反対は、AI技術の軍事利用における人間の判断と責任の重要性を強調し、技術的能力と倫理的制約のバランスを求める国際的な声を代表しています。

宗教界のAI議論への参加は、この技術が持つ「実存的な意味」を浮き彫りにします。自律兵器システムの問題は、単に軍事技術の効率性の問題ではなく、「機械が人間の生死を決定する権利があるのか」という根本的な哲学的問題です。これは、医療現場での延命治療の判断や、自動運転車の事故時の判断アルゴリズムと同じ構造の問題でもあります。バチカンの介入は、AI技術の発展において「技術的に可能であること」と「道徳的に許容されること」は別の問題であることを明確にしています。歴史的に見ても、核兵器の開発時に科学者たちが直面した倫理的ジレンマと同様の状況が、AI技術においても生じていると言えるでしょう。宗教界の参加により、AI ガバナンスの議論はより包括的で人間中心的なものになることが期待されます。