米上院99対1でAI規制停止案を否決、テック業界の連邦優先戦略が破綻

2025年07月02日

米上院が99対1の圧倒的多数でAI規制10年停止案を否決
テック業界の州法回避戦略が超党派の反対により完全に失敗
131の既存州AI法と30のカリフォルニア州提案法案が保護される

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圧倒的多数による否決：テック業界の政治的影響力の限界

米上院は7月1日、AI規制に関する10年間のモラトリアム（一時停止）案を99対1という圧倒的多数で否決しました[1]。この提案は、トランプ政権の予算法案に含まれており、州政府が連邦政府からの5億ドルのAIインフラ資金を受け取る条件として、既存のAI規制の執行を停止することを求めていました。共和党のマーシャ・ブラックバーン上院議員は、連邦法が制定されるまで州が市民を保護する権限を維持すべきだと主張し、この提案に強く反対しました[1]。

この否決は、メタをはじめとする大手テック企業が州レベルでの「煩雑な」AI規制に反対してきたロビー活動の完全な失敗を意味します[2]。企業側は州ごとに異なる規制が技術革新を阻害すると主張していましたが、超党派の議員たちは企業利益よりも公共の安全を優先する姿勢を明確に示しました。

この99対1という投票結果は、現在の米国政治における珍しい超党派合意を示しています。通常、党派対立が激しい米議会において、これほど一方的な結果が出ることは稀です。これは、テック業界の政治的影響力にも限界があることを示す重要な指標と言えるでしょう。特に注目すべきは、共和党議員も含めて州の権限を重視する声が強かったことです。これは、連邦政府による規制緩和を好む共和党の一般的な傾向とは異なり、AI規制については州レベルでの対応を支持する姿勢を示しています。

州レベルAI規制の現状：131法案の保護と今後の展開

今回の上院決定により、全米で既に制定されている131のAI関連法律が保護されることになりました[3]。特にカリフォルニア州では、現在20の法律が施行されており、さらに30の提案法案が審議中でした。これらの法案には、AI生成コンテンツの開示義務やディープフェイク対策などが含まれており、モラトリアムが成立していれば大きな影響を受けていたでしょう[4]。

労働組合のチームスターズから全米有色人種地位向上協会（NAACP）まで、幅広い団体がこのモラトリアム案に反対していました[3]。これらの団体は、AI技術の悪用、特にディープフェイクによる被害から市民を保護するためには、州レベルでの規制が不可欠だと主張していました。

州レベルでのAI規制が131法案も存在するという事実は、この分野での規制ニーズの高さを物語っています。これは、連邦政府の対応が遅れている間に、各州が独自に問題に対処せざるを得なかった結果と言えるでしょう。カリフォルニア州の積極的な取り組みは、シリコンバレーを抱える州として、AI技術の恩恵と同時にリスクも最前線で体験しているからこそと考えられます。今回の決定により、各州は引き続き地域の実情に応じたAI規制を進めることができるようになり、これは「実験室としての州」という米国連邦制の理念にも合致しています。

連邦対州の規制権限争い：今後の政策展開への影響

今回の決定は、AI規制における連邦政府と州政府の権限分担について重要な先例を作りました。トランプ政権は以前からAIに関する連邦レベルでの監督を削減する方針を取っており、その一方で州レベルでの規制も制限しようとしていました[2]。しかし、上院の決定により、少なくとも当面は州政府がAI規制の主導権を握り続けることになります。

一方で、連邦レベルでの統一的なAI政策を求める声も依然として存在します。規制の断片化が技術革新を阻害し、企業にとって複雑なコンプライアンス環境を作り出すという懸念は、完全に解消されたわけではありません[5]。

この連邦対州の権限争いは、AI規制の複雑さを浮き彫りにしています。AI技術は国境を越えて影響を与える性質を持つ一方で、その具体的な影響は地域によって大きく異なります。例えば、農業地帯でのAI活用と都市部でのAI監視システムでは、規制すべき点が全く違います。今回の上院決定は、この複雑さを認識し、画一的な連邦規制よりも柔軟な州レベルでの対応を重視したものと解釈できます。ただし、これにより企業側の負担が増加することは避けられず、今後は州間での規制調整や、最低限の連邦基準設定などの議論が活発化する可能性があります。